三三歳で自分探し

2011.12.31

O氏は現在、人材紹介会社を介して転職活動中だ。もちろん、そのことは会社の誰にも打ち明けていない。知っているのは妻だけだ。きっかけは上司に言われたひと言だった。「早く家を買えと言われたんです。で、自行でローンを組めと。銀行ではふつうのことですよ。父も、そしておそらく祖父もそうしたはずです。でも、妻は大反対しましたね。いまどき何様のつもりだ、余計なお世話だって」。銀行にとって、従業員は社会でも群を抜いた優良借り手だ。

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本人は真面目でよく働くし、他の民間企業と違って、(ふつうは)倒産による失業の心配もない。と同時に、それは自社への忠誠心を試す踏絵の役割も果たす。転職を考えているような人間なら、自ら進んで手足を縛られるような真似はしない。「もちろん、転職先としてベストなのは自分のキャリアが生かせる職です。でも、いまは本当にいろんな職種がある……本当に自分かやりたかったことはなんなんだろうって、いまさらながら考えることが多いですね」。自分探しというテーマは、なにも学生だけの専売特許ではないようだ。その安定性と高賃金にもかかわらず、メガバンクの新卒離職率は(同規模の)製造業などよりずっと高水準だ。その理由は、彼ら若者が先の見えないレールの上を歩かされる点にある。それは、まさに“デスマーチ”だ。かつて男はそのレールを通って財を成した。その息子の時代、そのレールは磐石で、彼もまた人生の成功者となった。だが孫の代になると、すでにレールはなかば崩れ去っていた。最後に、一つだけプライベートな質問をぶつけてみた。「子供ですか?二歳の男の子がひとり……彼に銀行は勧めませんよ」どうやら、曾孫が同じレールに乗ることはなさそうだ。




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